古い建物を解体する際に問題視されるアスベスト。適切に除去せず解体してしまった場合は大変です。周囲を危険にさらすおそれがあります。知らずに解体しないためにも、住宅などの建物の解体を予定されている方は、ぜひ本記事をご確認ください。
「アスベスト調査の必要性」や「調査の手続方法」、「アスベストを含む建物を解体する際の流れ」、「費用相場」について解説します。
アスベスト調査を行う理由
なぜアスベスト調査をしないと工事に取り掛かれないのか。それは、アスベストの多大な危険性にあります。
アスベストの危険性
アスベストの危険性について説明する前に、まずはアスベストの存在について触れましょう。
アスベスト(石綿)とは
アスベストとは、天然の繊維鉱物で「石綿(いしわた)」とも呼ばれています。安価で吸音性や断熱性に優れ、軽くて使いやすい為に昔は建築工事の材料として幅広く使われていました。
優秀な素材であるアスベストですが、建物を解体する際に周辺に飛び散り、さらに誰かが吸い込んでしまった場合は大変です。人体に悪影響を与えるおそれがあります。
人体にとって有害
アスベストは肉眼では確認出来ないほど極めて細い繊維からなっています。そのため、飛び散ると空気中に浮遊するので、人間の呼吸によって肺に吸い込まれやすい特徴があります。
アスベスト繊維は丈夫で変化しにくい性質なので、吸い込まれたアスベスト繊維は肺の中に長く留まります。軽くて丈夫という建築素材にとっての長所が、体内に入った途端に裏目に出てしまうのです。その結果、肺の繊維化が進み肺がんや悪性腫瘍の発生などの病気を引き起こす事に繋がります。
アスベストが原因で発症する病気の例
アスベストを吸い込んだ影響で実際に発症するおそれのある病気は、以下の通りです。
- 中皮腫
胸膜や腹膜、心膜などに出来る悪性の腫瘍。他の悪性腫瘍に比べても、人体への影響は深刻。
- 肺がん
肺に出来る悪性の腫瘍(がん)。特に喫煙との相乗効果で発症率は極めて高くなる。
- 石綿肺
肺が線維化してしまう病気。工事現場の作業員などが、アスベストを大量に吸い込んだ時に発症する。
- びまん性胸膜肥厚
肺を覆う膜が炎症を起こす病気。びまん性胸膜肥厚が発症する多くの場合は、肺だけではなく肺壁も炎症を起こしている。
なお、アスベストは吸い込んでから発症するまでに「30年~50年」の潜伏期間があります。忘れた頃に発症してしまうのは、アスベストの厄介な特徴のひとつです。
また、アスベストによる健康被害が拡大するにつれ、法律での規制も厳しくなっていきました。続いては、アスベストに関する法制度の移り変わりを見ていきましょう。
参考 アスベスト(石綿)関連疾患 独立行政法人環境再生保全機構アスベストの規制にまつわる法制度の移り変わり
実際に病気を引き起こした事例でも取り上げましたが、昔はアスベストの危険性に対する理解は乏しいものでした。現在はアスベスト製品の製造、使用は禁全に停止していますが、実は最近まで建材として使用されていたのです。
それでは一体いつから中止となったのか、年表を見てみましょう。
1975年(昭和50年) | アスベスト含有率が5%を超える吹付け作業の原則禁止。[特定化学物質等障害予防規則] |
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1995年(平成7年) | クロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)の製造、輸入、使用などを禁止。(特に毒性が強いため)[労働安全衛生法施行令] アスベスト含有率が1%を超える吹付け作業の原則禁止。[特定化学物質等障害予防規則] |
2004年(平成16年) | アスベスト含有率が1%を超える建材、摩擦材、接着剤等10品目の製造、輸入、使用などを禁止。[労働安全衛生法施行令] |
2006年(平成18年) | アスベスト含有率が0.1%を超える製品の製造、輸入、使用などを禁止。建築物の解体・改修作業時の規制を強化。[労働安全衛生法施行令] |
2012年(平成24年) | 石綿及び石綿を含む製品の製造等が全面的に禁止。[労働安全衛生法施行令] |
アスベストの危険性が判明し始めたのは1970年代から。しかし完全に使用が禁止になるまでに30年以上かかっています。「現存する建物にもアスベストが含まれている場合がある」ので解体などの工事を行う際は、必ずアスベストの事前調査をしましょう。
アスベストを含んだ建築物を解体する流れ
アスベスト調査の必要性はお分かりいただけたと思います。アスベストの事前調査は解体を依頼するものとしての義務です。
それでは、実際に「アスベストを含んだ建築物を解体する際の流れ」を見ていきましょう。
建物の事前調査
まず工事の施工者は、設計図書や現地確認でアスベストの使用有無を確認します。確認後、調査結果を資料として残し、発注者に報告します。
必要書類の提出
事前調査でアスベストのレベルが1または2だった場合、解体前に届け出が必要です。レベル3の場合、届け出は不要です。レベル1とレベル2で工事の発注者(自主施工者)が準備すべき書類は「特定粉じん排出等作業実施届出書」。工事開始の14日前までに各都道府県知事へ提出してください。
なお、レベル1の場合は工事の施工者が工事計画届出書、建築物解体等作業届を提出(工事計画届出書は発注者が提出する場合もあり)。レベル2の場合は建築物解体等作業届を提出します。
近隣住民への告知
工事の施工者は、作業現場に「建築物等の解体作業等における石綿のばく露防止対策等」の内容を掲示をします。石綿のばく露防止対策とは、アスベストが体内に侵入するのを防ぐ対策のことです。 対策内容を掲示することで、「適切な作業の実施」や「近隣の方の不安解消」を促進します。
参考 建築物等の解体作業等における石綿のばく露防止対策等の掲示について厚生労働省足場と養生シートの設営
足場とは、高所で施工者が作業する際に必要となる作業床のことです。また、養生シートとは建物の周りを囲むシートのことです。建物を取り壊す際、周囲にアスベストやホコリが舞うのを防いだり、騒音を軽減したりします。
通常の解体と比べアスベストを含む建物の解体前には、より対策が必要です。プラスチックなどで隔離された作業場内にアスベストを一箇所に集める集じん・排気装置の設置等も行います。
飛散防止剤をまく
建物を取り壊す際にアスベストが飛び散るのを防ぐ飛散防止剤をまきます。飛散防止剤は、薬剤で出来ており建物に薬品を浸透させ、覆い固定化する「封じ込め工法」の際に使用されるのが一般的です。
使用される薬剤には、IARC(国際がん研究機関)で「発がん性あり」、「発がん性のおそれがある」に該当する物質が含まれていないこと、または指定されたVOCが所定基準値以下のものであることなどのルールがあります。
参考 VOCとは?東京都環境局 参考 石綿含有建築物・工作物の解体石綿含有建築物・工作物の解体アスベストの除去
集じん・排気装置を稼働させ、アスベストを集めながら除去します。除去したアスベスト(廃棄物)は二重に梱包するか固形化し、適切に処理・処分します。
周辺のアスベスト除去作業
使用工具等に付着した周辺のアスベストも十分に清掃します。
集めたアスベスト(廃棄物)は最終処分場へ運搬し、足場や養生シートも撤去。管理表で適切に処理されたことを確認のうえ、発注者に報告したら作業完了です。
アスベストを含んだ建築物の解体の流れは以上です。以下では、アスベストを解体する際の手続き方法や調査方法について解説します。
アスベスト調査の手続き
解体業者がアスベスト撤去に詳しくない、他のアスベスト専門業者との繋がりがない場合は専門家へ依頼する方法があります。 また、アスベストの撤去のみであれば専門家への依頼がおすすめです。
設計図書での確認
アスベストが使用されているか調べる為に、まずは解体する建物を施工(工事)した建設業者または工務店、宅建業者に問い合わせて「設計図書」を用意してもらいます。 設計図書には建設時の材料や図面が記載されている為、設計図書を見て確認しましょう。
専門家に依頼
しかし、設計図書にはアスベストの仕様が記載されていない場合や、後々改修や補修などで使われた場合もあるので、現地調査と合わせて行う必要があります。その場合、現地調査は専門家と行い、必要箇所の建材をサンプリングして分析会社に分析を依頼します。
結果が出たら
分析の結果が出たら、専門家が調査票を作成してくれるので、調査結果を解体業者に提出しましょう。調査結果に基づいて建物を解体する際の見積りが行われます。
実際に何を調査する?
現地で実際に行われている事を見ていきます。
引用: 国土交通省 | 建築物のアスベスト対策
アスベストレベルと建築物の解体
事例を見ても分かるように、アスベストの取扱いは大変危険です。そのため、調査や撤去の際には特別な資格が必要になります。
国土交通省では、建築物の通常の使用状態における石綿含有建材の使用実態を的確かつ効率的に把握するため、中立かつ公正に正確な調査を行うことができる建築物石綿含有建材調査者の育成を図ることを目的として、昨年7月に「建築物石綿含有建材調査者講習登録規程」(平成25年7月30日公示)を定め、一定の要件を満たした機関を国土交通省に登録し、当該機関が行う講習を修了した者に建築物石綿含有建材調査者の資格を付与する制度を開始しています。
引用:国土交通省 | 建築物石綿含有建材調査者制度等について
さらにアスベストには飛散性を表す「レベル」が存在し、レベルによって取り扱い方が異なります。 それではアスベストのレベルについて詳しく見ていきましょう。
アスベストのレベルとは
発じん性の危険度ことです。「発じん性」の「じん」は漢字で「塵」と表し、ほこりやちりの事を指します。つまり、アスベストを取り扱った時にどれだけアスベストが飛び散るかで決まります。 より飛び散る方が危険ですので、危険度によりアスベストの除去方法は異なります。
なお、アスベストのレベルが分かったら結果を都道府県へ報告してください。アスベストの有無にかかわらず、2022年4月1日より結果を報告することが義務付けられています。
まずはレベル1です。レベルは全部で1~3まで存在しますが、1が最も発じん性が高くなっています。数字としては最も小さいですが、工事でアスベストが飛び散るリスクは最大なので騙されないでください。該当するのは「アスベスト含有吹付け材」で、建築物にアスベストとセメントを混ぜた状態で吹き付けられており、固まると綿のような状態になります。もう怖いですね。
お察しの通りアスベストの濃度が非常に高くなっているので撤去する際には大量のアスベストが飛び散ります。主に耐火建築物の梁や柱、エレベーター周り、立体駐車場や体育館の天井や壁などに使用されています。作業内容は建材の除去、薬液を塗って飛散を防止する「封じ込め作業」と板で密閉して飛散を防ぐ「囲い込み作業」が主です。
次にレベル2です。レベル1に比べると発じん性は下がりますが、それでも充分危険なのでレベル2までは専門家による調査が必須です。
該当するのは「アスベスト含有保温材」「断熱材」「耐火被覆材」などです。シート状に巻きつけてある為、やはりレベル1よりは飛び散りません。しかし作業内容としてはレベル1と同じように建材の除去、封じ込めや囲い込みを行います。
最後にレベル3です。取り扱うのはレベル1,2に該当しない「成形板」などのアスベスト含有建材です。密度が高く割れにくい性質なので注意して取り外せば飛散のリスクは低くなっています。建築物の屋根や外壁に使われており、撤去は手作業で行います。
レベル1,2に比べても作業員の保護服は簡易的になり、解体業者が行える場合もあります。
アスベストを含んだ建物・建築物の解体費用について
実はアスベストのレベルによって解体の費用が変わります。レベル1,2の撤去には特別な作業が必要なので専門家に依頼します。その為、飛散性の低いレベル3に比べると工事費が大きく異なります。
条件によっても費用は異なりますが、国土交通省が出した目安は以下の通りです。
吹き付けアスベスト処理費用(1㎡あたり単価)の目安としてはおおよそ ※今後の情勢により、処理費用は変動する場合がある。 以下の通りである。(仮設、除去、廃棄物処理費等全ての費用を含む) 1.アスベスト処理面積300㎡以下の場合 20千円/㎡ ~ 85千円/㎡
引用:国土交通省 | 石綿(アスベスト)除去に関する費用について
条件によって単価が変わるため幅が大きいですが、家全体となると実に数百万ほどの費用がかかる場合もあります。アスベストが使用されていない、又はアスベストレベル3と比べた場合、アスベストレベル1、2の撤去費用は甚大です。だからこそ、解体の前に調査をして判明させ、予算を出してもらうのが安心ですね。
構造物ごとのアスベスト解体にかかる費用の目安
アスベストの解体にかかる費用は構造物ごとに変動します。
屋根材
通常のストレート屋根は、1平方メートルあたり3,000円~5,000円が相場。ストレート屋根とは、セメントを薄い板に加工した屋根材のことです。
下記は、坪数ごとのアスベスト解体にかかる費用相場です。
坪数 | 費用相場 |
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10坪 | 99,000~165,000円 |
20坪 | 198,000~330,000円 |
30坪 | 297,000~495,000円 |
40坪 | 396,000~660,000円 |
50坪 | 495,000~825,000 |
外壁
1平方メートルあたり2〜9万円程度です。 部材や建築材によって異なりますのでご注意ください。
外壁でアスベストが含まれているのは屋根であることがほとんど。スレート屋根はもちろん、セメント瓦や粘土製以外の瓦はアスベストを含んでいるおそれがあります。
参考 外壁がアスベストかどうかを見分ける方法と除去にかかる費用リフォームガイド内管や配管
内管や配管などでアスベストの処理面積が300平方メートル~1,000平方メートルの場合、相場は1平方メートルあたり1万5,000円~4万5,000円です。国土交通省が過去の施工実績から算出しました。
参考 アスベスト対策Q&A国土交通省天井や柱
天井や柱などでアスベストの処理面積が300平方メートル以下の場合、相場は1平方メートルあたり2万円~8万5,000円です。部屋の形状や天井の高さなどにより、大きく異なります。
参考 アスベスト対策Q&A国土交通省 アスベストを含んだ建築物の解体事例に関しては以下の記事を参考にしてください。 参考 アスベストの「レベル」とは?アスベストの解体費用はどれくらい? 解体工事の情報館解体業者選びのコツ
建物を解体する際、アスベスト調査は必須だとお話ししてきました。しかし、自分でアスベスト調査の手続きをする場合、どの専門家に依頼すれば良いのか正直迷うと思います。確かに、アスベスト調査には特別な資格が必要で、専門家に依頼する必要がありますが、実は優良な解体業者を選ぶ事でもっと一連の流れを楽に、スムーズに行うことが出来るのです。
なぜなら、解体業者によってはアスベストの専門家と繋がりがあり、アスベスト調査を斡旋してくれたり、アスベストに詳しければアスベスト調査そのものを行える解体業者もあります。「でもどこが良い解体業者が分からない……」という方は複数の解体業者に見積りを依頼できる一括比較サイトが便利です。
一度に複数の業者を紹介してくれるので、自分で探すよりも効率的にアスベストに対応した解体業者を見つけられます。
「業者が多くて迷う」という方は「解体無料見積ガイド」にお任せください。アスベストに詳しい解体業者も探せます。
まとめ
アスベストが飛散してしまうリスクを考えると、解体前のアスベスト調査は必然です。自身や近隣に被害を与えない為にも、アスベスト調査は必ず行いましょう。 手続き等が不安という方は業者選びにこだわれば、調査と工事をスムーズに進める事に繋がります。