古くからお家の横に建っていた小さな蔵。「もう何年も使っていないから取り壊してしまおう」と考えている方も多いでしょう。
とはいえ、「小さな建物だから費用は大した金額にならないだろう」と思っていたら、業者さんから提示された予想外の金額に驚かれてしまうかもしれません。
今回は土蔵の解体には費用がどれくらいかかるのか、実際の事例とともにご紹介していきます。
土蔵を解体する手順
土蔵の解体を依頼する前に全体の流れを知っておくと、業者任せにならずスムーズに段取りを進めることが出来ます。土蔵の解体工事は構造や立地などの条件によって異なりますが、基本的には以下のような手順で行われます。
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解体工事を依頼する
土蔵の取り壊しを依頼する解体業者を選びます。できれば複数の業者に見積りを依頼して、比較して決めるのがおすすめです。業者が決まった後は、近隣への配慮のため周辺のお宅へ挨拶周りを行います。
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養生の設置
解体工事は騒音や粉塵が発生してしまうため、取り壊す建物の周囲に養生を設置します。また安全に工事を行うためには頑丈な足場を設置することが重要です。
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土蔵内の残留物の撤去
解体工事を始める前に、土蔵内にある古物や生活用品を撤去します。もちろん、解体業者に処分を頼むことも可能ですが、ご自身で処分した方が費用を抑えることが出来ます。
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瓦等の分別撤去
解体工事は法律により、廃棄物を品目ごと分けて処分することが義務付けられています。そのため最初から重機を使って壊すのではなく、まずは手作業で瓦などの屋根材を撤去することから始めるのが主流です。
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建物の解体作業
重機を使用して建物の解体作業を行います。なお、立地や構造によっては、重機が使用できず全て手作業で解体しなければならない場合もあります。ただし、手作業による工事は重機に比べて費用が割高です。お見積りは電話ではなく、可能な限りお立会いの上で現地調査を行ってから出してもらうようにしてください。
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土壁の処理
土蔵ならではの作業として、土壁の土を落とす作業があります。土壁はそのままの状態では回収が出来ないため、手作業で土と藁を分ける作業を行います。最終的には他の廃材と同様に法令に則った処分が必要です。
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産業廃棄物の撤去
土蔵の解体が終了した後、産業廃棄物を分別して運び出します。解体工事では廃棄物以外にも周りに埃や土が残る可能性があるので、こまめな清掃が欠かせません。
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整地をする
廃棄物をトラックで運んだ後、最後に土地を綺麗に整地します。解体工事をした状態では更地の表面が凸凹になっているので、重機を使って填圧をかけながら地面を固めます。
土蔵の解体費用の目安は?
土蔵は古くから家宝や食料を守るため活躍してきた、先人たちの知恵によって考えられた伝統的な建造物のひとつです。長年に渡りさまざまな災害に耐えられるよう湿度にも火の気にも強い丈夫なつくりになっています。
そのため、取り壊しに掛かる費用は決して安価ではありません。以下で詳しく見ていきましょう。
土蔵の主な構造は木造ですが、外壁は厚い土壁で覆われており、外側にできるだけ木材の部分が出ないようにしてあります。
そのため土蔵は、江戸時代には火災から戦時中には空襲から、長期に渡って家財を守る防火建築として活躍してきました。
ちなみに、土壁の骨組みは竹を格子状にして縄で編んだ竹小舞(たけこまい)です。さらに、上から土とつなぎの藁をまぜて作った壁土(かべつち)を塗ったものが下地になっています。
そして、その上から砂の入った壁土を重ね、最後に漆喰を塗って完成です。以下の動画を見ると土壁の構造が良く分かるので、ぜひ参考にしてみてください。
土蔵の解体費用はどうして高くなる?
緻密なつくりをしている土蔵を解体するのはなかなか大変な作業です。
重機で一気に土壁を壊す業者さんもいれば、金槌で叩いて手作業で土壁を落としていく業者さんもいます。同じ土壁でも解体する方法は様々です。
以下は、海浜住宅建築舎さんのブログ記事からお借りした土壁を落とす様子分かる写真です。
土壁を解体する際、埃がものすごく出るので皆さんしっかりマスクなどの装備を整えて作業に臨まれています。
繰り返しになりますが法律により廃材は分別することが義務付けられています。そのため、土壁は土や竹、縄など、品目ごとに手作業で分別をしながら工事を進めなければなりません。
また、通常であれば廃材のうち、竹や縄は可燃処理場に、土は不燃処理場に持っていって処分をします。ただし、土壁の土には藁が混ざっているため、特別な処分場でなければ引き受けてもらえない場合があります。
このように、土壁の建物を解体するには人手が必要ですし、処分費も高くなる傾向があるわけです。
土蔵の解体費用はどれくらい?
では具体的に土蔵の解体工事費はどれくらいなのでしょうか?
いくつか解体業者さんのホームページで提示している金額を見てみると、1坪当たり35,000円~となっているところが多いようです。
しかし、実際には壁の強度や使われている建材、現場の状況によって費用が異なるため坪単価は一定になりません。
単価はあくまでも目安であり、地域やまわりの環境によっても大きく変わることを理解しておきましょう。
土蔵の解体事例を見てみよう
ここからは実際の解体事例を見てみましょう。
【事例1】群馬県の土蔵
敷地面積 | 81m² 約24.5坪 |
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こちらの土蔵は住居や他の倉庫と共に解体されました。見積書を見てみましょう。
上記、見積書のうち「木造瓦葺2階建 蔵」が土蔵本体の解体に掛かる費用項目です。
金額は1m²あたり12,000円で、合計972,000円となっています。
なお、見積書は単位がm²になっていますが、1坪は約3.3mなので、81m²は24.5坪です。そのため、坪単価は3万9,673円だったのが分かります。
また、「下屋」という項目は土蔵の小屋根の部分のことです。
小屋本体の解体とは別途に見積られていて、金額は1m²あたり3,000円、下屋部分の解体費用は合計で6万7,800円となっています。
本体と併せると土蔵を取り壊すのに掛かる費用は全部で103万9,800円でした。
ちなみに、こちらの事例は他の建物との合算になっている項目があるので、見積書だけでは正確な金額は算出できません。「残置物処分」や「外周シート養生」「重機の回送・整地」といった項目も土蔵の解体に欠かせないため、上記で計算した以外にも費用が発生しています。
【事例2】愛知県の土蔵
敷地面積 | 79.2m² 約24坪 |
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こちらの土蔵は一見、戸建て住宅のような外装をしていますが、構造は「土蔵造り」の建物です。
「中庭樹木撤去」や「中庭庭石撤去処分」など、庭の撤去に必要な項目が含まれていますが、それ以外は全て土蔵の解体に必要となった費用です。なお、土蔵の解体に掛かった費用の総額は93万3,818円でした。
【事例3】京都府の土蔵
敷地面積 | 36m² 約11坪 |
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こちらの土蔵は、京都市の大きな寺院にほど近い住宅地にあったものです。いかにも古都・京都というような外観ですね。
ただ、写真を見るとわかるように、接している道路の幅が狭く、周囲が建物で囲まれていたため重機での取り壊しができませんでした。
見積書を見てみましょう。
m²あたりの金額は1万7,000円、1坪あたりは4万7,781円でした。
見積書を見てみると屋根と建屋の項目には「人力」と記載があるので、手作業で解体されたのが分かります。
また、分別されていない廃材は処分単価が高くなります。実際に見積書にある「混合廃材」の項目は「木くず」に比べると、処分費の単価が倍近く高いです。
ちなみに、「同上廃材積込費」にある122,400円は、現場付近にトラックが停められなかったため、廃材を人の手でトラックまで運び、積み込むのにかかった費用です。
こちらの土蔵の解体に掛かった費用は、全部で136万8,300円でした。
以上のように土蔵をひとつ解体するにも、一戸建て住宅を取り壊すのと変わりないくらいの費用がかかるわけです。
解体費用の負担を少しでも減らすために
実際に土蔵の撤去に掛かる費用をご覧になって「思ったよりも高かった」という方が多いのではないでしょうか。そこで、ここからは土蔵の解体費用を抑える方法についていくつかご紹介していきます。
蔵の中の物を鑑定してもらおう
最初に検討して欲しいのは、蔵の中に残っているタンスや引き出しなどの家財を売りに出す方法です。場合によっては、掛け軸、茶道具、書道具、象牙、などアンティーク品として高値で売れる物があります。
「古物・骨董品」買取に依頼する処分品
とはいえ、「土蔵の中に物がたくさんあって選別するのが面倒だ」という方は多いでしょう。
しかし、鑑定や処分を業者に丸投げしてしまった結果、「価値がある物を処分してしまっただけでなく、費用まで払ってしまった」という方が少なくありません。
必ず値段が付くとは限りませんが、せっかくなら一つひとつ丁寧に取り扱って適正な価格で取引をしてもらいましょう。
「古道具 買取」「骨董品 鑑定」等で検索すると、鑑定や買取をしてくれる業者を見つけられます。時間に余裕がある方はぜひ試してみてください。
「古材」買取に依頼する
古い土蔵の中には、貴重な木材を使用している場合があります。最近では「新築に古材を使いたい」「古民家風の家に住みたい」といった需要が一部で高まっていることから、古材の買取を行っている業者があります。
柱や梁だけでなく、壁や階段といった場所に使われている古材が買取の対象になる場合もあるようです。さらに、状態が良ければ高額で買取ってもらえるケースもあるので、解体工事で建材に傷がついてしまう前に、古材買取業者に見てもらいましょう。
捨てられるものはできるだけ捨てておこう
捨てていいとわかっているものに関しては、できるだけ工事の見積りを取る前に処分をしておきましょう。
家庭ごみとして出せる物であっても、業者さんに処分をお願いすると産業廃棄物として扱われるので、費用が割高になってしまいます。また、特に注意が必要なのは次のようなものです。
- 衣類やシーツなどの布製品
- 食器や花瓶などの陶器類
布製品や陶器類は、各自治体のルールにしたがって処分すれば数百円から数千円程度で処分ができます。もちろん、手間が掛かりますが確実に費用を抑えられる項目なので、ぜひご自身で取り組んでみてください。
しかしながら、どうしてもご自身で家財道具や不用品の処分ができない、という場合は不用品を専門に扱う回収業者に依頼するのが良いでしょう。
費用は掛かりますが、一般廃棄物として処分ができる回収業者の方が、解体業者に比べると費用を抑えられる傾向があります。
買取り・回収業者の注意点
家財道具の買取りや不用品の回収を業者に依頼する際は、「追加費用」などの項目にご注意ください。
中には、後から高額な費用を請求してくる悪徳業者も存在します。あまりにも条件が良い時は事前に内容をしっかり確認して、書面等で提示してもらいましょう。
仮に、不法投棄などの違法行為があった場合は、業者だけではなく依頼をしたあなたにも責任が問われる場合があります。
家財道具の買取りをお願いする際は、古物商許可を、不要品の処分を依頼する際は、一般廃棄物収集運搬業務許可をそれぞれ取得しているか確認をしておくのがおすすめです。
補助制度が利用できるか自治体に聞いてみよう
老朽化した建物を取り壊す際、条件を満たしていれば各地方自治体から補助金を受けられる場合があります。
自治体によっては蔵のみの解体であっても補助の対象としているところがあるので、自治体の担当部署に確認を取ってみてください。
建物の取り壊しに伴う補助金は、年度ごと予算に達成した時点で受付が終了してしまうところがあります。その場合、新たに受付が開始されるのが翌年度になってしまうケースが多いので、対象条件や期限は早めにチェックしておきましょう。
また、申請前に着工してしまうと補助の対象にならない場合がほとんどなのでご注意ください。
土蔵の解体における手続き
最後に土蔵を解体するにあたって必要な手続きについてご紹介します。
建物滅失登記
建物を取り壊したら、1ヶ月以内に建物滅失登記を行います。建物滅失登記とは、登記の内容を変更する手続きで、建物が失くなった場合に登記簿から該当する建物を削除します。土蔵を解体する場合も対象です。
仮に、滅失登記を行わないまま放置してしまうと、新しい建物を建てることができなかったり、存在しない建物に対する固定資産税が課せられたりする恐れがあります。
さらに、期間内に手続きを行わないと、罰則として10万円以下の過料に処される可能性があります。(不動産登記法164条)
なお、建物滅失登記は土地家屋調査士に代行を依頼する方法とご自身で行う方法があります。
登記がされていない場合
建物を建てた時は「建物表示登記」を行いますが、古くからある土蔵などは未登記の場合があります。
また、未登記の場合は、自治体が調査を行って別途に固定資産税を徴収しているケースがあるため、固定資産税が課税されていても念のため登記してあるかどうかの確認を事前に行いましょう。
解体を予定している土蔵が未登記かどうかを調べるには、法務局で「全部事項証明書」の請求を行って調べる方法があります。
全部事項証明書とは、過去から現在の所有者や地目等の登記に関わる全てを証明した書面です。取得するためには数百円の料金がかかります。
もし、全部事項証明書が請求できない場合は未登記の可能性が高いです。万がいち未登記だった場合は、代わりに「家屋滅失届出書」という書類を提出します。解体工事を依頼した業者に署名・捺印をしてもらって管轄の自治体に提出しましょう。
自治体のホームページを確認しても届け出方法が分からない場合は、税金に関連する窓口で問い合わせてみて下さい。
なお、未登記の建物を解体する場合の手続きについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
建物滅失登記を安く抑える方法
建物滅失登記は土地家屋調査士に代行で依頼する場合、土地家屋調査士が手続きを行うため、施工主は委任状を提出する作業だけなので簡単に済みます。ただし依頼をした場合は、一般的に3万円~5万円の費用がかかります。手間がかかりますがご自身で建物滅失登記を行うと、この費用を抑えることが出来ます。
建物滅失登記をご自身で行う流れとしては、必要な書類を準備して管轄の法務局へ書類を提出します。書類の提出は郵送可能な場所もありますが、不備がないかの確認のため法務局へ直接手渡しすることをお勧めします。書類が不備なく提出できると、「登記完了証」という書類が届き手続きが完了となります。
ご自身で滅失登記をご検討の場合は、こちらの記事で詳しい方法を説明しているのでご参照下さい。
土蔵の解体費用についてのまとめ
土蔵の解体は、一般的な戸建て住宅を壊すのと変わらないくらいの費用が掛かるため、「思っていたよりも費用が高い」と思った方も多いでしょう。
できるだけ負担を減らすためには、蔵の中の物を買い取ってもらったり、処分したりして積極的に整理していくことが重要です。
また、工事費を抑えるためには管轄の自治体が補助金などを用意していないか調べてみるのも効果的です。
なお、解体工事を選ぶ際は、必ず数社から見積りを取って比較してみるのがポイントです。
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