地主さんから借りている土地に自分の所有する建物がある方の中には、「そろそろ借地を返還しようと思っている」「地主さんから更地にして返却するように言われた」「立ち退きを求められている」といった方がいらっしゃるかと思います。
借地権の返還(返却)には方法がいくつかあり、それに伴い課税の有無や返還にかかる費用などが変わります。また、適用となる法律も借地によって異なり、契約期間や条件が借地ごとに違います。
そこで本記事では、借地権の返還方法の違いや、費用や契約期間などのチェックポイントについて詳しく解説していきます。
そもそも、借地権は借地人さん(借りている方)の立派な財産です。
借地人さんの多くはその事実に気が付いていない方も多いです。
借地権は財産ですから第三者に売却することも可能で、場合によっては思いもよらないような高額で買い取ってもらえることも多々あります。
もちろん素直に更地にして地主さんに返すのも良いのですが、借地権の返還についてお悩みの借地人さんは、本記事をぜひご覧になってから判断されると良いでしょう。
借地権に関する基礎知識
「借地権」とは、建物を所有するために土地を借りる権利のことです。
一般的に借地の返却とは、借りている土地と設定された「借地権」を貸主である地主に返すことをさします。なお、借地権を返却するタイミングは様々です。
契約期間が満了した時はもちろん、地主が立退料を支払って期間外に返却を求めるケースや、地主の承諾を得て第三者に売却するといった方法もあります。
また、こうした借地権の移動や取引は「借地法」により取扱いのルールが定められているのでご注意ください。
特に、「借地法(旧法)」は平成4年7月31日に「借地借家法(新法)」に改正されているため、借地権が設定された時期によって契約期間や更新に関わる内容が異なる場合があります。
借地法(旧法)
旧法では契約の期間が建物の構造によって定められており、契約期間が満了した後は更新が可能です。また、更新後も同じく旧法の内容が適用されます。
旧法の契約期間
建物の構造 | 初回の契約期間 | 更新の可否 | 更新後の契約期間 |
---|---|---|---|
木造住宅 (非堅固建物) |
20年以上 定めがない場合は30年 |
可 | 20年以上 定めがない場合は30年 |
重量鉄骨造、RC造など (堅固建物) |
30年以上 定めがない場合は60年 |
可 | 30年以上 定めがない場合は30年 |
なお、旧法では地主から更新の拒否をされない限り自動的に契約が更新され続けます。(法定更新)さらに、更新の拒否をする場合は正当な事由が必要です。
また、地主が契約の更新を拒否した場合は、借地に残っている建物の買取請求ができます。(建物買取請求権)そのため、建物の老朽化が進んで処分しなければいけない場合は建物の撤去費用を地主に負担してもらうことが可能です。
しかし、借主側に重大な契約違反などが合った場合には、地主が買い取り請求に応じない場合もあります。
借地借家法(新法)
新法には期間が満了した後に更新が可能な「普通借地権」と、更新ができない「定期借地権」の2つがあります。
契約期間は、普通借地権の場合で一律30年以上、定期借地権の場合は建物の用途や条件によって決まります。
また、普通借地権は更新ができますが、定期借地権が設定されていた場合は、契約期間の更新ができません。そのため、期間が満了した時点で必ず建物を取り壊して更地にしてから借地を返却する必要があります。その際の費用は借主が負担します。
新法の契約期間
借地権の区分 | 初回の契約期間 | 更新の可否 | 更新後の契約期間 |
---|---|---|---|
普通借地権 | 30年以上 | 可 | 初回:20年以上 2回目以降:10年以上 |
定期借地権 | 一般定期借地権:50年以上 建物譲渡特約付借地権:30年以上 事業用借地権:10から50年未満 |
不可 | - |
旧法と新法の違いによる借地権返還への影響
旧法で設定された借地権は、地主が更新の拒否をする際に「正当な事由」が必要となります。
しかも、正当な事由として認められるのは、借主による明らかな契約違反や落ち度があった場合のみです。
- 地代の不払いがあった
- 許可なく建物の増築などを行った
- 老朽化が進んでいて建物が使えない
そのため、旧法は借主を保護する性質が非常に強く、際限なく契約期間を更新することが可能でした。
そこで、新法では契約期間が満了した後に必ず土地が返ってくる「定期借地権」が設けられたわけです。
しかし、定期借地権は従来の借地権よりも契約期間が長いため、「建物が老朽化して使えなくなっているのに借地権のみが残り続けてしまう」といった別の問題が生じました。
地主との関係が良くないと、返却や譲渡といった手続きがスムーズに進めらず借地権を巡ったトラブルが発生してしまうケースも少なくありません。
借地の返却の際は、ご自身の契約内容を事前にしっかり確認してみてください。
借地及び借地権の3通りの返還方法
借地及び借地権を返却するには、無償もしくは有償で地主に返還する方法と、第三者に売却する方法があります。
- 無償で地主に返還する
- 有償で地主に返還する(借地権を地主に買い取ってもらう)
- 第三者に売却する(借地権を第三者に売却する)
借地権は立派な「資産」です。土地の価格を基準とした相場があります。そのため、法律の範囲内で取引が可能です。ただし、返還の方法によっては「所得」や「贈与」とみなされ、課税の対象になる場合があります。
どの方法で返還するのか地主側ともじっくり話あって検討してみてください。
地主に無償で返還する方法
借主(借地人)側に関して
契約期間の満了に伴い借地権を無償で返還する場合、個人の地主と個人の借主間のやり取りは課税の対象にはなりません。
個人の借主が課税の対象になるのは、相手の地主が法人というケースです。
相手の地主が法人のケースでは、原則として借地権の時価で譲渡があったとみなされ、譲渡所得として個人の借主に所得税が課税されます。
ただし、例外として老朽化した建物が借地に残っていてる場合や、借地権設定時に『無償返還届出書』が所轄税務署に届けられ、管轄の税務署から無償返還が認められている場合などは課税の対象にはなりません。
また、借主が法人というケースでも課税対象になります。
通常受け取るべき借地権相当額を地主に贈与したとみなされるからです。
ただし、これも上記例外理由に当てはまる場合、課税対象から外れます。
地主側に関して
個人の地主は、借地権に相当する額の贈与や譲渡を受けたとみなされるため、課税の対象になります。
借地を貸していた相手が個人だった場合は「贈与税」、法人だった場合は一時所得として扱われるので「所得税」の対象です。
ただし借主側と同じく、地主側にも例外が認められます。
また、地主が法人だった場合は通常の借地権取引があったものとみなされ、法人税の課税対象になります。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は課税対象から外れます。
- 『無償返還届出書』が税務署に提出されている場合
- その土地の価額からみて、相当の地代を収受している場合
無償で返還する場合の課税
区分 | 対象の課税 | |
---|---|---|
借主 | 個人 | なし(地主が個人)、贈与税(地主が法人) ※例外あり |
法人 | 贈与税 ※例外あり | |
地主 | 個人 | 贈与税(借主が個人)、所得税(借主が法人) ※例外あり |
法人 | 法人税 ※例外あり |
地主に有償で返還する方法
借地権は地主に有償で買い取ってもらえる場合があります。
例えば、時間が経過して状況が変わり、「やっぱり土地を使いたい」と地主が思っても、借地権がある以上は地主が勝手に土地を使う事はできません。
この場合、地主は「立退き料」を支払って借地権を買い戻す必要があります。
地主に借地権を買取してもらう
また、旧法の場合は借主から申し出が無い限り法定更新によって契約は自動更新されるので、地主は契約期間が満了しても土地を返してもらえる保証がありません。
そのため、地主が借主と交渉をして、借地権を買い取る形で返還されるケースもあります。
借地権の買い取りに伴う相場は、路線価の60%から90%です。ちなみに、借主から交渉をした場合は一般的な相場よりも買取価格が低くなる傾向があると言われています。
借地上の建物を取り壊す
借地権を買い取ってもらう場合は、残存する建物の買取を請求する権利がないので、基本的には借地上の建物を借主側で取り壊す必要があります。
ただし、取り壊しに掛かる費用は高額です。一般的に30坪ほどの戸建て住宅でも120万円以上掛かると言われています。
とはいえ、地主から買い取りの交渉などがあった場合は、取り壊し費用に関しても交渉の余地があるので、借地権を買い取ってもらう時には漏れなく相談してみてください。
また、業者へ見積りを依頼してから実際に取り壊し工事が完了するまで、およそ2ヵ月かかります。返還期日に間に合うよう手配するためにも、早めに準備に取り掛かりましょう。
取り壊し工事をする前に借地権を売却することで、工事費のご負担をゼロにできる可能性がございます。借地権が設定された土地にある建物を撤去する際は、当協会(あんしん解体業者認定協会運営)の担当者にその旨をお伝えください。専門担当者からご説明いたします。(ご契約後のご連絡ではお手続きが間に合いませんので、必ず、事前にお伝えください)
有償で返還する場合の課税について
借地権を地主に有償で返還した場合、借主側は課税の対象になります。一方、地主側は支払った立退き料等が土地の取得費として扱われるので課税の対象にはなりません。
区分 | 課税の対象 | |
---|---|---|
借主 | 個人 | 譲渡所得 |
法人 | 譲渡益(借地権譲渡益) | |
地主 | なし(立ち退き料等は土地の取得費に加算) |
第三者に売却する方法
借地権は資産としての価値があるので、第三者に売却して返還することができます。
ただし、借地権を第三者へ売却する際は地主の承諾が必要です。 そのため、地主との関係がこじれていると売却を認めてもらえないケースがあります。場合によっては、取引が上手く進まない事もあるので売却を検討する時は慎重に話を進めましょう。
また、借地権の買い取りには交渉や手続きが必要です。「スムーズに取引を済ませたい」「手続きが面倒」という方は、不動産会社や借地権の買い取り専門業者を利用してみてください。
不動産会社を通して買主を探す方法
不動産会社の中には、借地権を取り扱う事業部を設けているところがあります。大手不動産チェーンなども合わせると取り扱いがあるところは案外多いです。
また、不動産会社の場合、既存の建物に価値が残っていればあわせて買い取ってもらえる可能性があるので、まとめて査定してもらうことができます。
ただし、「仲介」のみを扱っているところでは、借地権が売れ残ってしまう可能性があるので、不動産会社を選ぶ際はご注意ください。
借地権専門業者に買取りを依頼する方法
不動産会社とは別に、借地権の買い取りを専門として取り扱っている業者があります。仲介とは異なり、買い取りを前提としているので、「借地権がいつまでも売れずに残ってしまう」といったリスクがないのが特徴です。
査定をしてもらって金額が分かった後は、借地権を売るかどうかの判断をするだけなので、駆け引きが非常にシンプルなのも助かります。
ただし、適正価格で買い取ってもらうためには、買取実績などを考慮に入れて慎重に業者選びをする必要がありそうです。
借地を返還する手続きの3ステップ
借地を返却する際は、建物の取り壊しや各種届け出が必要です。事前に手順を確認してスムーズに進められるようにしましょう。
1.地主への連絡と報告
返却に伴う期間や残存する建物の処分方法、費用の負担など、まずは設定されている借地権の契約内容を確認します。
契約内容が確認できたら続いて地主に契約更新をしない旨を伝えます。事前の連絡が済んだら残った建物を撤去しましょう。ただし、地主には必ず事前の連絡をして、今後の流れをお互いにすり合わせてから建物の取り壊しを行うのが重要です。
取り壊し工事は高額な費用が掛かるだけでなく大変危険を伴います。地主への事前連絡をせずに工事を行ってしいまうと、場合によっては色々なトラブルになってしまう可能性があります。事前の連絡と報告は忘れずに行ってください。
2.取り壊し業者の選定と取り壊し工事
地主と相談をして今後の流れが決まったら、建物の取り壊し工事を手配しましょう。
特に、取り壊しの工事で出る騒音や振動、ホコリはご近所とのトラブルになりやすいです。
取り壊しに掛かる費用はなるべく抑えられた方が良いですが、これまでの実績や万が一の時にどういった対応をしてもらえるのかなどを事前に確認して、少しでも丁寧な工事をしてもらえる業者を探してください。
3.更地の返還と建物滅失登記
更地になったら土地を地主に返還して、建物がなくなった旨を管轄の法務局に届け出る必要があります。これが「建物滅失登記」です。なお、建物滅失登記を行う期間は建物がなくなってから1ヶ月以内です。
借地を更地にするための解体費用
地主に借地権を返還する際は、更地にして返還するのが基本です。
では、借地を更地にするためには建物の解体費用がどれくらいかかるのでしょうか?
解体費用は建物の構造と大きさによる
建物の解体にかかる費用は、解体する建物の大きさはもちろん、どのような構造になっているのかによって、大きく異なります。
建物が大きければ足場の建設や養生などに手間がかかり、現場に動員しなければいけない作業員の人数も変わってくるからです。
建物の構造が木造なのか、鉄骨造なのかによっても、使用する重機が異なるため作業内容が変わります。たとえば東京都の解体費用相場は、木造の坪単価が39,198円、鉄骨造の坪単価が54,019円、RC造の坪単価が84,283円、プレハブ造の坪単価が32,470円です。
以下で紹介する解体業者を選ぶ際のひとつの目安になるでしょう。
借地を更地にする際の取り壊し業者の選び方
借地を更地にする際に重要なのは、返却後にトラブルにならないようにすることです。
例えば、新築を建てる予定が控えているのに、更地に埋設物や大きな石が残っていると次の工事に取り掛かれません。
場合によっては整地などの追加費用が発生してしまう恐れがあります。そのため、どちらが何処までの費用を負担するのか、責任の所在をはっきりとさせてから工事に取り組むのが良いでしょう。
また、アスベストなどが使われていた場合は法令に遵守した施工が必要です。アスベストの取り扱いを間違えてしまうと、有害な物質が周囲に飛散してしまい、大きな事件になってしまう場合があるのご注意ください。
さらに、不法投棄などが発覚した場合は、工事の依頼主であるあなたに責任が問われるケースがあります。くれぐれも業者選びは慎重に行いましょう。
取り壊し工事の流れとスケジュール
取り壊し工事を行うには、まずエリアが対応している業者にコンタクトを取って見積りを出してもらいます。なるべく複数の業者から見積りを取って比較してみてください。
続いて、業者が決まったら電気やガスなどのライフラインを停止して取り壊しに着工します。工事が完了して更地になった後は、管轄の法務局に「滅失登記」の届け出を行って終了です。
必須ではありませんが、工事の安全を祈願して着工前に「地鎮祭(じちんさい)」を行う場合があります。
業者の良し悪しを見分けるチェックポイント
取り壊し業者を比較する際に、優良な業者を見極めるにはいくつかポイントがあります。
例えば、お見積りを取る際の現地調査で不明点を聞いた時に、親身になって相談にのってくれるかどうかや対応の速さなどはとても大切です。
そもそも、建物の取り壊しはトラブルが非常に多い工事だと言われています。
そのため、何か合った時に誠意のある迅速な対応ができる業者さんに依頼出来たほうがトラブルが大きくなるのを防いだり、未然に回避出来たりします。
また、建物の廃材は建設リサイクル法に則った正しい分別が必要です。
特に、不法投棄などが発覚した場合、工事の依頼主であるあなたにも責任が問われてしまう恐れがあります。必ず処分方法を細かく記載した「マニュフェスト」と呼ばれる廃材の管理票を発行してくれる業者を選びましょう。
取り壊し費用を抑えるポイント
いくつかポイントを抑えて取り組むことで、建物の取り壊し費用を抑えられる場合があります。
3社以上で相見積もりを取る
取り壊しの費用を抑えるために欠かせないのが「相見積り」です。
取り壊しの費用は地域ごとにある程度の相場はありますが、業者ごとに価格が一定になりません。場合によっては数十万円以上の金額差が生じることもあります。
そのため、適正価格を意識しながら業者選びができると良いでしょう。一般的には3社以上見積りを取れば相場感がつかめると言われています。
現地調査には極力立ち会う
とはいえ、極端に金額が低い業者には注意してください。特に、項目に漏れがあると追加費用の対象になってしまう恐れがあります。
そのため、現地調査にはなるべく立ち会って、詳しく話をしながら必要な情報を漏れなく伝えておくことが大切です。
また、見積書の書き方は業者さんによって異なります。見積書を見てみて不明点などがあれば事前に聞いて確認しておきましょう。
補助金や助成金を活用する
建物の取り壊しを行う際、地域によっては各自治体が実施する補助金が利用できる場合があります。なお、金額は地域ごとに異なりますが、多いところでは数十万円以上を負担してもらえる地域もあるようです。
なお、補助金の利用には条件があり、交付決定には審査があります。利用を検討される場合は期間に余裕を持って取り組まれてください。
不用品は自分で処分する
建物内に残っている残置物と、取り壊し工事で出る廃材はそれぞれ取り扱いが異なります。
廃材の種類 | 取り扱い区分 |
---|---|
残置物、不用品など | 一般廃棄物 |
建材、廃材など | 産業廃棄物 |
仮に、一般廃棄物を産業廃棄物として処分してしまうと費用は割高です。そのため、残置物や不用品はご自身で処分した方が費用を抑える事ができます。管轄の自治体の指示に従って少しずつ処分していきましょう。
建物滅失登記を自分で行う
滅失登記の手続きは土地家屋調査士などの専門家に依頼することができますが、ご自身で行うことで費用を抑えられる場合があります。
一般的に滅失登記の手続きを専門家に代行してもらうと5万円前後の費用が必要です。とはいえ、正しい手順を踏めば手続き自体それほど難しくありません。余裕がある方はぜひご自身でチャレンジしてみてください。
借地の返還についてのまとめ
借地権の返還において大切なことは、借主と貸主が日頃からコミュニケーションをしっかりと取り、小まめに相談できるような人間関係になっておくことです。
良好な関係が構築できていることで、借地を返還せずに契約の延長を検討されている場合も、契約期間などに関してお互いが有利になるように交渉することができるでしょう。また、原則としては更地での返還が求められる借地ですが、建物を買い取ってもらえる可能性もあります。
借地権を持つあいだは、お互いが気持ち良くいられるような人間関係の構築に努め、返還の際は円満に終えられる状況をつくりましょう。